話したい

話したい

1989年11月9日、ベルリンの壁崩壊のニュースが世界中を駆けめぐった。
壁によって分断されたブランデンブルグ門前を埋めつくす人の渦。東欧のみならず世界の歴史の流れが変わろうとしている瞬間だった。
しかし実を言うとテレビに写し出されたその映像に、心を揺らされながらも、事の次第がよくわかっていなかったように思う。 それから数日たった夜、不意に一編の暗い映像を思い出していた。

――黒いコートを着た一人の男が、カラフルな絵や文字で埋めつくされた壁の前を歩いている。壁の向こうには色を失った東ベルリンの町が見える。その男は、人間の目からは見ることの出来ない天使だった。――

そう、ヴィム・ベンダース監督の映画『ベルリン天使の詩』のワンシーンだ。 あの壁が崩れた。頭の中でいつまでも天使が壁の前を歩いていてはけない。そんな気がした。 そして東ヨーロッパの国々に旅立つことを決めた。その土地や人々に出会って、話して、その手に触れてみよう。全てはそれからだと思った。
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